自分の想いを伝え、PRする場である面接。「面と向かって話すのが苦手」「緊張しやすいから不安」といった方は多いのではないでしょうか。一方で、「面接は余裕」と思っている方は、足元をすくわれてしまうかもしれません。 今回は、2019年11月30日(土)に開催された「マスコミ業界仕事サミット in 東京 2021卒 #3」にて、「伝え方講座」の講師を務めた気象予報士・キャスターの石上沙織さんに、自身の就活面接時の失敗談を含め、「話し方・伝え方」についてお聞きしました。
──気象キャスターとしてお仕事をされている傍ら、話し方や伝え方の講師としても活動されていらっしゃいますが、講師業を行うきっかけは何だったのでしょうか。 石上沙織さん(以下、石上):前に勤めていた会社で、キャスターを目指している後輩から「話し方を見てほしい」と言われたのがきっかけです。教えているうちに教える楽しさに気づき、仕事として続けていこうと思いました。 ──今回講師を務められた「伝え方講座」を見ていて、あらためてプロの方の話しぶりに聞き惚れました。キャスターとしてお仕事をされるにあたり、専門の勉強をされていたのでしょうか。 石上:キャスターを志望していた大学時代から、アナウンサースクールには通っていました。今でいうSkypeのような、テレビ電話で受けられるWebレッスンも受けていました。 ──もともとお話するのは得意でしたか? 石上:声は通る方でした。人前で話すのも好きでしたね。 ──スクールで学ぶことで変わったこと、身につけられたことは何でしょうか。 石上:1番変わったのは言葉遣いです。いわゆる若者言葉が、面接などあらたまった場でも出やすい状態だったんですよ。ふだん使っていないから、きちんとした言葉が出てこない。あとは早口ですね。 ──講座でも、早口の自覚がある学生がたくさんいましたね。今回「間を取る」というアドバイスがありましたが、面接のように緊張する場での早口を改善するのはなかなか難しいのではと思います。
石上:わかります。私も今でもプライベートでは早口ですよ(笑) ──そうなんですね! 仕事スイッチが入ると、今のように滑らかに話せるのでしょうか。 石上:それはありますね。プライベートでは、あまり口を開いて話さないんです。そうして、どんどん早くなってしまう。そのため、緊張してどうしても早口になってしまう方は、間を取ることを意識するのと同時に、口を大きく開けて話してほしいです。口を大きく開けながら早く動かすのは難しいので、口を開くとおのずとスピード感が緩みますよ。
──面接で、どうしても緊張で頭が真っ白になってしまうという学生もいると思います。石上さんの就活のときはいかがでしたか? 石上:ありました! 第一志望の面接で、本当に頭が真っ白になってしまって。面接官ががんばって掘り下げようと質問してくれているのに、全然答えられなかった。何を聞かれてどう答えたのか、まったく覚えていないんです。「真っ白になった」ことだけが記憶にある、悔しい経験です。 ──何が失敗の原因だったのでしょうか。 石上:単純に練習不足が1番ですね。シミュレーションをもっとしておけばよかったなと思いました。練習はしているつもりだったんですが、足りていなかったなと。あと大きいのは、過信ですね。 ──過信ですか。 石上:人前で話すのが好きで、しゃべるのが下手だとも思っていませんでした。人前で緊張することもあまりなかったので、「大丈夫だろう」と思っていたんです。だから、緊張したときの対策方法もわかっていなかった。結果、緊張感にそのまま飲まれてしまって、ぐだぐだの面接になってしまいました。 ──石上さんのセミナーに来る受講生の方も、今回の講座に参加した学生も、恐らくは自分で「話すのが苦手」「話し方の対策をする必要がある」と思っている方だと思うんです。でも、今のお話を聴いて、そう思っていない人こそ要注意なのかもしれないと感じました。 石上:苦手意識があると対策を取りますもんね。昔の私のように、「大丈夫だろう」と高をくくっている人の方が、確かに落とし穴があるかもしれません。 ──学生時代の石上さんが、失敗してしまった面接での反省を踏まえて行った対策は何ですか? 石上:練習回数を増やしました。アナウンススクールをもう1カ所増やし、別視点での評価も受けるようにしましたね。あとは、シミュレーションを繰り返しました。講座では「想定質問を考えておきましょう」とお話しましたが、当時の私は考えていなかったんですよ。 ──それも、「話すのが得意だから」と思っていたがゆえの油断だったんですね。 石上:そうですね。 ──緊張で頭が真っ白になってしまうことに対する対策方法はありますか? 石上:「頭が真っ白になる」原因が何かによって異なります。多いのは、自分の評価を気にしすぎてしまうがゆえの「真っ白」です。これは私もでしたね。就活当時の私には、「自分をどうやって大きく見せよう」という背伸び意識があったんです。
※失敗を経て、事前準備の大切さを実感したと語る石上さん
アナウンサー試験に来るような人って、みんなすごい人に見えるんですよ。きれいで、学歴もすごくて、「ミス慶応」みたいな人が多い。そんな人たちのなかで自分を秀でて見せなきゃ受からないと思って、ないものを出そうと気負いすぎていたんですよね。 ──面接で、どうしても緊張で頭が真っ白になってしまうという学生もいると思います。石上さんの就活のときはいかがでしたか? 石上:自分にベクトルが向くと、どうしても緊張しやすくなると思います。実は、今も緊張に飲み込まれそうになることはあるんですよ。 ──そうなんですか? 石上:ふだんの放送では緊張に飲み込まれないのに、これがオーディションなど「私」が評価される場になると、途端に緊張してしまうんです。プライベートだと、相手に面白いと思われたい、異性に良く見られたいといった意識が働くと、やっぱり緊張してしまいますよね。 ──面接では、どうしても目の前の面接官に見られる立場です。石上さんはどうやってそこから脱却したのでしょうか。 石上:何度も落ちる経験を重ねるうちに、力が抜けていきました。「私は私だし、そのままの自分を見せるしかないんだな」と思えるようになったんです。そして、実際に受かった会社の面接は、自分では可も不可もない出来だったなと思っていました。それくらい素で話せたんだと思います。もちろん、それまでの経験を踏まえ、ちゃんと準備を整えてきたという前提はありますが。 ──入念に準備・練習を重ねたうえで、当日は力を抜いた自分で受けられた? 石上:はい。面接での受け答えを例にしますと、当初は「最近気になるニュースは何ですか?」と聞かれたとき、政治や報道に関することを答えなければという力みがあったんです。アナウンサーを目指すんだから、とわかりもしないことを話そうとしていました。ただ、面接相手は政治や報道のプロです。そんな方たちに理解しきれていない話をするのはおこがましいと思うようになっていったんですね。 ──なるほど。いい顔をしようとしすぎてしまっていたんですね。 石上:そうなんです。そこで、小さなニュースでもいいから、本当に自分が共感できたことについて話そうと意識を変えました。そうすると、ちゃんと相手にも伝わるんです。逆に、わかりもしない政治について語っていたときには、その薄っぺらさも伝わっていたんだと思います。 ──なるほど。いい顔をしようとしすぎてしまっていたんですね。 石上:そうなんです。そこで、小さなニュースでもいいから、本当に自分が共感できたことについて話そうと意識を変えました。
そうすると、ちゃんと相手にも伝わるんです。逆に、わかりもしない政治について語っていたときには、その薄っぺらさも伝わっていたんだと思います。 ──理解できていないことについて話そうとすると、どうしても教科書的といいますか、面白みのない内容になってしまうような気がします。 石上:誰かの言葉を借りてきている感じになってしまいますよね。そのような誰でも話せる内容は、相手には響きません。これから面接に臨む方たちにも、ぜひ自分の言葉で話せることをしっかり伝えてほしいですね。 ──よくあるアドバイスとして、「聴衆をじゃがいもと思え」がありますが、これに対して石上さんはどう思われますか? 石上:個人的にはなしですね。だって、じゃがいもに伝えようと思えますか? ──思えないですね。 石上:ですよね。この「伝えよう」という気持ちは話し方に如実に表れるので、相手をじゃがいもだと思って話すと、恐らく多くの方が棒読みになってしまうと思うんですよ。確かに複数の人を前にして話すのは緊張します。そこでおすすめの対策は、そのなかでも「うんうん」と聞いてくれている人に向かって伝えようと話すこと。私が今日の講座のような場で話すときも、傾聴の姿勢がいい方に向かって話しているんです。 ──面接官が複数いるときも、「この人」と意識することで話しやすくなるんですね。その他、緊張を生む原因のひとつとして、敬語問題があると思います。石上さんも若者言葉が出てしまうことがあったとおっしゃられていましたが、正しい言葉遣いについて石上さんが思うところをお聞きしたいです。 石上:まず、前提として勉強はしておきましょう。ただ、個人的には完璧でなくてもいいと思います。正しい敬語の使い方に意識が取られすぎて、伝えたいことが伝えられなくなるのは本末転倒ですから。あとから覚えられることでもあるので、少し間違ってしまったとしても、気持ちを伝えることの方が重要かなと思いますね。
ことば遣いに関連することで、注意が1点あります。真面目な人ほど、想定質問を紙に書き出すと思うんですが、少し気をつけてもらいたいことがあるんです。 ──どういうことでしょうか? 石上:書き言葉と話し言葉は別物です。文章が書ける人ほど、きれいにまとめられると思うのですが、その文章は実際に口にしたときに硬い印象を与えてしまう可能性が高いんですよ。これは社会人、特に管理職の人でもよく起こることなんです。 ──ビジネスマンだと、なおさら硬い文章になりそうです。 石上:「話すときには使わないよね?」という言葉を、書くときには使ってしまいますもんね。それだと、口に出したときにロボットのようになってしまい、やっぱり相手に伝わらないんです。私がお教えする際は、小学校高学年やおじいさんおばあさんにも伝わるような言葉選び、ペースが1番相手に伝わるとお伝えしています。 紙に書いて覚えたい方は、自分の口から出てきた言葉を書いて覚えることをおすすめします。1度録音して、それを文字に起こすと1番自然な表現になりますよ。
「スキル的な話をしたけれど、1番大切なのは気持ちが相手に伝わること」と語ってくれた石上さん。セミナーでも、その人が好きなものについて話してもらうと、どの人も活き活きと話してくれるのだそう。ただし、気持ちだけが先行してしまうと、相手の理解が追い付かない場合があります。そこを、フレームワークを利用した「わかりやすい伝え方」でフォローしてほしいと語ってくれました。
別記事では、石上さんが講師を務めた講座の内容もレポートしています。話し下手はもちろん、「話すのは余裕だよ」と思っている方も、あらためて面接対策を見直すきっかけにしてみてくださいね。
石上沙織(いしがみさおり) 気象予報士・キャスター 1984年10月28日生まれ 大学卒業後、NHK岐阜放送局・名古屋放送局のキャスターとして勤務。取材先の方に言われた「天気予報だけは必ず見る」という言葉で天気の重要性に気付き、気象予報士を目指す。 民間気象会社でラジオ・テレビでの解説、原稿執筆・予測業務などに従事し、2016年春よりウェザーマップに所属。天気に関心のある人もない人も振り向かせられるような解説を目指す。