固定残業代でモメないために・・・固定残業制度の正しい運用方法

固定残業制度とは、あらかじめ定めた固定の残業代を毎月支払う制度のことで、固定残業代のことを「定額残業代」や「みなし残業代」と言うこともあります。求人広告などで固定残業代表記ルールが厳格化されてきた背景や、企業が気を付けるべき点についてご紹介します。


固定残業代とは何か

固定残業代は、大きく分けると下記2つの種類があります。

(1)「毎月〇時間分の割増賃金を支払う」として割増賃金を定額の手当を支給する方法
(2)「基本給には〇時間分の割増賃金を含む」として給与に組み込む一体型の方法

固定残業代に定められた残業時間を超えて労働した場合には、追加の残業代を別途支払う必要があります。固定残業代には毎月の残業代を保障し、業務の繁閑による残業代のアップダウンを平準化する機能があります


固定残業制度を悪用し、問題となるケース

「固定残業代として一定の残業代を支給しておけば、それ以上の残業代を支払わなくてもよい」というものではありません。しかし、労働者を低賃金で酷使しようとするブラック企業では「うちの会社は固定残業代が支払われているから、それ以上の残業代は請求できない」と言い、労働者に圧力をかけたり、誤認させたりしているケースがあり、問題となっています。


その固定残業代は不適切です!

これらの状況になっている場合は違法、または違法の可能性が高いです。

・定められた時間を超える時間外労働があったのに追加の残業代が支給されない。
・そもそも固定残業代の額が不正(月45時間の固定残業代が1万円・・・など)
・固定残業だからといって、会社が勤務時間の管理をしていない。
・固定残業代が何時間分の残業代なのかが明確でない。


固定残業代を企業が取り入れる理由

企業にとって固定残業代を取り入れるメリットとしては、給与計算業務の負担が軽くなるということ、年間の収支予算が立てやすいことが挙げられます。
デメリットとしては、実際の残業時間が少なかった場合にもあらかじめ決められた固定残業代を全額支払わなければならないということがあります。固定残業代は手当としての性格を持っているため、控除することは困難という考え方が一般的です。


正しく運用されれば労働者にもメリットがある

過去に固定残業代の制度を導入し、不正な給与を支給していた企業が後を絶たず、社会問題となったことがありました。そのため「固定残業=ブラック企業」というネガティブなイメージがついてしまっているようですが、本来は固定残業代の制度は正しく運用されると、労働者にとって有利な制度です。毎月の残業代が固定されていて、早く退社しても残業代がもらえるならば、生産性を向上し、残業を減らした方が労働者にとっては得になります。そのため無駄な残業が減り、ワークライフバランスの実現にもつながります。

ただし固定残業代で定めた時間数が多すぎると、労働者が「いくら残業しても残業代が増えない」という不満を抱えることになってしまいます。労働者に残業をさせることがある場合には、労基署に「36協定」を届け出る必要がありますが、その36協定では1か月の時間外労働の限度を45時間とされています。(特別条項をつける場合を除く)すなわち、固定残業の時間数は、この45時間以内にすべきでしょう。

※参考:時間外労働の限度に関する基準(厚生労働省資料)


役職手当を固定残業代としたい場合は?

また、役職手当や営業手当などの特定の手当を固定残業代の代わりとしている企業も多く見受けられます。その場合は単に「残業代に代えて●●手当を支払う」などという表現では何時間分の残業代が支払われているのか分からないため不適切です。このような形で運用する場合には「●●手当には〇時間分の残業代を含む」と具体的に手当に含まれる残業代が何時間分なのかを就業規則や個別の労働契約で明らかにしておかなければなりません。


固定残業代を支払う際に明確にすべきこと

固定残業代の支払い方として、大きく分けて2つあるとご紹介しました。手当として支給する方法の場合は、給与明細を見れば固定残業代がいくらなのかは明らかです。しかし、給与に固定残業代を組み込む場合は基本給と残業代がいくらなのか、明確に区分できるようになっていないと、争いが起こった場合にはリスクとなります。組み込み方式は労働者にとって分かりにくい制度なので、この方法を採る場合には特に、個々の労働者にしっかりと説明する必要があるでしょう。


固定残業代の正しい表記方法は?

「青少年の雇用の促進等に関する法律(若者雇用促進法)」の改正により、固定残業制を採っている事業主は募集にあたって、次のことを明示するよう、指針に定められました。

※参考:若者の募集・採用等を行う際は 若者雇用促進法に基づく指針を確認してください (厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク)

(1)固定残業代に該当する労働時間数と金額
(2)固定残業代を除外した基本給の額
(3)固定残業代を超える労働時間分の割増金を別途支払う旨

固定残業代については、ハローワーク経由の求人の中でもトラブルが多く、苦情も寄せられています。これを受けてハローワークでも固定残業代の表記に関わるルールの周知が行われています。

※参照:求人申込書(フルタイム・パートタイム)記入上の留意点(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク)

なお、ハローワーク以外の求人メディアについても同様のルールの適用を求められます。


求人広告や求人票へ表記する場合

■具体的な記載例
(例1)固定残業代を手当として支給する場合
  月給20万円
  固定残業代20時間 3万円
  (20時間を超える残業代は別途支給)

(例2)固定残業代を給与に組み込む場合
  月給23万円
  (固定残業代20時間分3万円を含む。20時間を超える残業代は別途支給)

(例3)営業手当を固定残業代の代わりとする場合
  月給20万円
  営業手当3万円(営業手当には20時間の残業代を含む。20時間を超える残業代は別途支給)

■問題のある記載例
(例1)月給23万円(固定残業代を含む)
   →残業代の金額、時間数、超過分についての記載がないため不適切

(例2)月給20万円
   営業手当3万円(営業手当には残業代を含む)
   →残業代の時間数、超過分についての記載がないため不適切

(例3)月給23万円(各種手当を含む)
   →そもそも残業代が支払われているのかも不明なため不適切

ハローワークでは適切な記載がされていない場合、その求人票は受理されません。求職者から「求人票と条件が違った」と頻繁に苦情が寄せられ、あまりにも状況がひどいと認められた場合は、一定期間求人票を受理してもらえなくなります。ハローワーク以外の求人メディアに掲載する際も同様で、入社後のミスマッチを防ぐためにも求人を出す際には、あいまいな表現は避け、明確な記載をするようにして下さい。


まとめ

固定残業代が有効なものと認められるためには次のことが必須です。
  ・固定残業代の額と時間数が明確であること。
  ・固定残業代部分とそれ以外の賃金の区分が明確であること。
  ・実際の残業が定めた固定残業の時間数を超過した場合は別途の残業代を支給すること。
  ・固定残業代が法定の計算方法によるものと同額であるか上回っていること。

固定残業代の制度は、残業代の節約になるという誤解も多く、正しく運用されてない例があることも事実ですが、そのような場合は違法です。 最近は労働者の権利意識も高まっていますので、過去の未払い残業代を請求されるリスクも大きくなります。
残業時間が少ない時も決められた残業代を保障し、残業時間数が超過した場合には追加で残業代を支払うというものなので、労働者は残業代をもらいたいがために無駄に居残りする必要も無くなり、時間の効率を意識して働くようになります。生産性も高まり、仕事に対するモチベーションも上がるでしょう。
会社の持ち出しはありますが、一定の残業代を保障することで、労働者の生活が安定します。固定残業代の制度を正しく運用し、大切な人材の定着のために役立ててほしいと思います。