大ヒットゲーム事例・最先端のゲーム技術から考えるゲーム業界の未来──Adobe基調講演レポート

大ヒットゲーム事例・最先端のゲーム技術から考えるゲーム業界の未来──Adobe基調講演レポート

スマートフォンでのアプリゲームをはじめ、ゲームが身近に大量にある昨今。手軽に始められる一方で、離脱も手軽にできる側面があります。多くのゲーマーに長くプレイし続けてもらえる大ヒット作品を生み出すために、必要とされるものは何なのか。2019年12月15日(日)開催の「広告・IT業界仕事フォーラム」にて、アドビシステムズ株式会社のマニッシュ・プラブネさんによる基調講演が行われました。

Adobe基調講演 講師紹介

マニッシュ・プラブネ(Manish Prabhune)
アドビシステムズ株式会社
デジタルエクスペリエンス営業本部
市場開発部長

講演は2種開講

当日は、最新のゲーム事情から見る未来のゲーム業界についての本講演の前に、広告×IT業界を取り上げる講演も行われました。いずれも盛況で、2回とも聴講した学生も多く見られました。

付加価値を与えられる“特別なオンリーワン”

マニッシュさんは、2004~2009年に訪問者数9000万人超えの人気ブログを書いていたことがあります。ゲームに関する情報を紹介するブログが人気を集めた理由は、“このブログにしかない情報”を得られるからでした。

SMAPの「世界に一つだけの花」になぞらえ、「ナンバーワンにならなくても、オンリーワンを狙えば、それが付加価値になる」と語るマニッシュさん。ただし、そのオンリーワンは「特別なオンリーワン」であることが大切だといいます。「自分はこういう者なんだ」という自負から生まれるリアリティや、オリジナルのモノ作りが重要なのです。

「誰に売るのか」を考え、結果をデータで確認せよ

マニッシュさんが以前「インド人式計算ドリル」を出版した際、広告を出したのは女性誌でした。考えたのは、お金を出す層は誰なのか。つまり、計算ドリルをやる対象は子どもであっても、興味をまず抱くのは主に親であり、購入するのも親であるからです。

ただ、この事例では、マニッシュさんの予想は外れることとなりました。ふたを開けてみたら、母親たちが買い与えても、肝心の子どもたちがあまり遊んでくれなかったことがわかったのです。ただし、その一方でインド人式計算ドリルはヒットしました。ヒットを支えたのは、脳トレのために利用した高齢者たちです。

「最終的に、誰がどのような用途で活用したのか、予想通りだったのか、意外性があったのかについて調べるために、データが重要なのです」とのマニッシュさんの説明に、学生たちは真剣に聞き入っていました。

個人に合わせた体験の提供方法

いわゆる「ガラケー」時代にマニッシュさんが開発に携わった「モンスターメーカー」。今多く見られるアプリを無料でダウンロードし、課金によりマネタイズを行うビジネスモデルではなく、サブスクリプションモデルのゲームです。女性からの支持を集め、10億円を売り上げましたが、当時はまだまだデータを十分に取れる時代ではありませんでした。

現代は、ユーザー一人ひとりの人となりを理解できる時代です。そのため、機能をただ磨くのではなく、誰にどの機能をあてがうのかを考える時代になっているとマニッシュさんは指摘します。ありがちな失敗は、既存顧客の離脱です。離脱が続くと、常に新規顧客を増やし続けなければなりません。そのため、新規顧客の獲得と合わせて、既存顧客に向けた施策を打ち出す必要があります。月間アクティブユーザー数が一定数減った時点でテコ入れを行ったり、プッシュ通知を送ったりなど、さまざまな工夫で長くゲームを楽しみ続けてもらえる環境を作っているのです。

流れを変えたのは、ジョブズ、そしてスマートフォンの登場です。これまではキャリアが担ってきたゲームコンテンツ作りを、ジョブズはハンドセットメーカー、つまりAppleやGoogleが顧客体験のために行うと宣言しました。キャリアはネットワーク回線に注力せよと告げたのです。
また、スマートフォンの登場により変わったのは、ソーシャルという町の出現です。ポケモンGOを好むマニッシュさん自身を例に挙げ、「私はFacebookには興味がないけれど、Facebook上にあるポケモンGOの外国人ユーザーグループに興味があるからFacebookを利用するといったことがあるんです」と語ります。ひとり一台スマートフォンを持つ中で、家族が同じ空間に居ながらにして、別のコンテンツに触れていることは、今や当然といってもいいでしょう。

では、ゲームが与えうる個人への体験には、どのようなものがあるのでしょうか。同じくポケモンGOを例に挙げ、マニッシュさんが指摘したポイントは以下です。
<ポケモンGOの体験・価値>
・仮想現実(AR)が付加価値
・好みに合わせたゲームプレイが可能


マニッシュさんは「ただポケモンを集めて図鑑に集めたい人、課金してすべてのポケモンを集めたい人、週末だけ楽しむライトユーザー、子どもに付き合っている人、レアポケモン好きの人など、好みはさまざま。どのような用途のユーザーでも利用できるのが大切です」と補足しました。性別、年齢層といった属性と行動データを分析することで、個人に合った体験を作ることができるのです。

この「体験」がしっかりあることで、消費者はサービスを利用し続けます。例として、Googleのアレクサについての問いが投げかけられました。アレクサを所持している人は、会場で6人程度。このうち、「買ってよかった」と答えた人はひとりでした。つまり、技術を買うだけでは顧客体験にはならず、必要な体験ができることで初めて心が動くというわけなのです。
ここで、大人気ゲーム「Call of Duty」の事例が紹介されました。「Call of Duty」は、ゲームをやり続ける人が31%しかいないことが課題でした。その理由は、プレイは簡単であっても、マスターするハードルが高かったためです。そのため、「Call of Duty」はスキルレベルに合わせたアドバイスをする「パーソナルコーチ」を付けることに。そのパーソナルコーチの機能を担わせたのが、アレクサでした。

アレクサは音声をデータ化し、ユーザーが有料アイテムの購入に至りそうか判断。何千本のデータがアドビシステムズに送られ、即座にデータ化されています。結果、個々に合わせたレコメンデーションが可能に。アイテムの購入率や継続率向上に繋がったのです。

こうしたデータの収集・活用はこれからの時代に重要な役割を担っています。しかし、勝手に収集するのはNG。必ず消費者に許可を得なければなりません。そのためには、消費者が自発的にデータの共有をさせてくれる仕組みを作る必要があります。この仕組み作りは、次世代の課題なのです。

“消費者の真実の瞬間”を見つけることが重要

顧客体験を提供するには、「真実の瞬間」を見つけることが重要となります。1980年代、ポカリスエットのサンプルを都内で配ったときの事例です。サンプル品を飲んだ人たちから寄せられたのは、「まずくはないがおいしくはない」といった評判でした。しかし、8月に高尾山の頂上で登山客に配ると、「おいしい!」と評判になったのです。

この事例からわかるのは、データだけでは不十分であることです。タイミングや場所次第で、人の心は変わります。消費者の心が動くのはいつ、どのような場所なのか。真実の瞬間を見つけるためには、人間を見つめて想像力を使う必要があります。データだけに頼るのではなく、ゲームの場合はゲーマーに共感し、ゲーマーの気持ちを想像することで、消費者が購入し、プレイし続けたくなるゲームの開発や打ち出し方ができるでしょう。

データの収集はツールに任せ、人を見ること。どうすれば自分たちのモノを買ってもらえるのかを考えることが、成功の秘訣なのです。

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