広告×IT業界の変化とそこで活躍するコツ──アドビシステムズ基調講演レポート

新聞やテレビといったマスメディアから、SNSやホームページといったネット広告まで、IT技術の進歩と共に、消費者が触れるメディアは多様化を極めています。従来のようなマスメディア式の広告の打ち方だけでは、消費者に商品やサービスを手に取ってもらうことは難しくなるといえるでしょう。

これからの広告業界で活躍するには、どのようなコツがあるのか。2019年12月15日(日)開催の「広告・IT業界仕事フォーラム」にて、アドビシステムズ株式会社のマニッシュ・プラブネさんによる基調講演が行われました。

アドビシステムズ基調講演 講師紹介

マニッシュ・プラブネ(Manish Prabhune)
アドビシステムズ株式会社
デジタルエクスペリエンス営業本部
市場開発部長

講演は2種開講

当日は、最新のゲーム事情から見る未来のゲーム業界についての本講演の前に、広告×IT業界を取り上げる講演も行われました。いずれも盛況で、2回とも聴講した学生も多く見られました。

“顧客体験”とは何か

マニッシュさんは来日21年。本講演に参加している学生の年齢とほぼ変わらないことから、「日本の移り変わりを同じように経験してきた立場です」と語ります。これまで「商品をどのようにして消費者に買ってもらうのか」について仕事をしてきた知見から、顧客にどういった情報を与えると商品を買ってもらえるのか、顧客の心を動かすことができるのかについてスピーチすると前置きをしました。

まず、会場に問いかけたのは「顧客体験」について。顧客体験には明確な定義がないとし、ゼンショウホールディングスのレストラン「エルトリート」とタイムズ とが顧客体験をどのように考えているのかについて、マニッシュさんの実体験から考えました。

マニッシュさんがよく行く西葛西にあるエルトリートでは、主婦や家族連れの他、インド人の客が多いという特徴があります。そのため、ヒンドゥー語のメニューがあり、インド人向けに氷を抜いた水を出すというサービスが行われているのだそうです。しかし、マニッシュさんには氷入りの水が出されるのだといいます。その理由を、「私のことを日本在住歴が長い人だと理解した上で、あえて氷を入れている」とマニッシュさんは説明しました。
一方で、エルトリートに行く際に利用しているタイムズの機械に書かれた説明は、すべて日本語表記。1時間無料サービスの対象店であるエルトリートにはヒンドゥー語で説明が書かれていますが、タイムズだけで利用方法を理解することはできません。

両者の違いは、顧客の顔が見えるかどうか。直接接客を行わないタイムズには、西葛西エリアにインド人が多いと知る機会ありません。しかし、エルトリートは日々客と接するため、客層や性別の傾向、どのような対応が顧客を喜ばすのかが判断しやすいのです。

この例を踏まえ、顧客の表情・属性がわかりづらい点において、Webサービスはタイムズと似ているといえます。

多様化したメディアにより起こった変化

顧客の状態を理解するためにアドビシステムズは何を行っているのでしょうか。それを知る前に、まずはデジタルにより生活がどのように変化してきたのかを知る必要があります。

メディアが現代のように多様化する前、メディアといえばテレビや新聞を指していました。テレビや新聞の功績は、マスを作り出したことだとマニッシュさんはいいます。つまり、みんなが同じ暮らしを目指し、同じ体験を欲しがる社会が作られたのです。そのため、当時の日本では、同じ場所に新婚旅行先に行き、同じような服を着るといった状況が見られました。マスコミは認識作りに適しているメディアだといえます。

マスコミがメインであった時代の情報収集には、双方向性がなく、メディアが発信した情報を顧客が受けるだけでした。しかし、現在ではその状況が大きく様変わりします。

たとえば、旅においても、現代では消費者が求める体験が多岐に渡っています。スマートフォンで地図検索や翻訳ができることで、行動の自由度も増しました。マニッシュさんは自身が好むポケモンGOを例に挙げ、「特定の県に行こうと思ったことがなくても、限定のポケモンが出ると聞けば私は行く。そういう個々の好みに応じて動く世の中に変わってきている」と指摘します。
昔は、ひとつの商品・サービスを紹介する際、ひとつのCMを作ればよかった。しかし、現代では、「私」に合った提案、コミュニケーションが必要不可欠なのです。なお、Webが多様化する前である1996年にアドビシステムズが行った調査では、Webをじっと見られる時間はおよそ18秒、新聞の方が目を留めていられる時間が長いといった結果が出ていました。しかし、現在はメディアが多様化したため、1アクテビティに数中できる時間はおよそ8秒。わずかな時間で価値ある情報を与えられなければ、消費者が去ってしまうのが現代なのです。

「そうしたなか、40分もセッションを聞いてもらえるのは、本当にありがたいことなんです」とのマニッシュさんの言葉に、会場には笑いが起きました。

アドビシステムズが行っていること

こうした変化を受け、今アドビシステムズではどういったことを行っているのでしょうか。

CMを1本作ることにかかる労力やコストと比べ、一人ひとりに合わせたコンテンツ作りには多くの時間が掛かります。できるだけ効率的にコンテンツを作る際、役立つのがAIであり、AIを最適化させるためのデータです。

2009年頃は、PCにCD-ROMを入れてインストールし、アドビシステムズなどのソフトを利用するのが一般的でした。しかし、現代ではクラウド型が主流です。クラウド型ソフトでは、3ヵ月に1回程度のペースでソフトが自動的にアップデートされます。そのアップデートの背景にあるものが、ユーザーの使用データなのです。例として、その昔は5時間かかっていた画像の切り取り作業は、どんどん時間が短縮され、精度も増しています。これは、ワンクリックで切り取ったあと、ユーザーが手作業で直した動作をAIが学習し、精度が磨かれ続けているためなのです。

また、スマートフォンを横向きで撮影したビデオを投稿用に縦向き画像にする再も、AIを使えば1分で作成できます。このように、作業にかかるコストを圧縮することで、浮いた予算を別の場所に回すことが可能となるのです。

「やりたい仕事をやるためには、お金をどこからか持ってこなければいけません。これから社会に出た際は、“このオペレーションをこのくらいで行うため、ここにお金をかけていいか”と交渉するのがあなたたちの仕事です」との言葉に、学生たちは真剣に聞き入っていました。

AI時代に活躍するコツは、共感力×想像力で思い出に残る体験を作り出すこと

最後にマニッシュさんが語ったのは、AIが台頭する世界において、人間にできることです。マニッシュさんは、自身のブログの瞬間アクセス数を8万と飛躍的に伸ばした経験があります。これは、映画の公開50周年を機に、インド人に有名な日本を舞台にした映画「Love in Tokyo」のロケ地を巡り、新旧のロケ地の様子を投稿したのがきっかけでした。

この事例からわかるのは、想像力と共感力とを掛け合わせることの重要さです。そして、これこそがAI時代を生きる人間がやるべきことだといえるでしょう。掛け算が重要なため、片方がゼロでは意味がありません。

「人間の想像力には、AIに負けない無限の力があります」と語ったマニッシュさん。アドビシステムズも、感情のギャップを作ることで消費者を引き込むサービスの提供を続けています。コンテンツ作り、データの両技術を利用することがこれからのデジタル時代で活躍するコツ。ユーモアを交えた講演に、学生たちが集中して聞き入る40分間でした。

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